●『ニューヨークのゴボウ』 2007年東書Eネット掲載

ニューヨークのゴボウは10ドル。 
世界中でゴボウを食べる民族はほとんどいないらしい。何でもそろっているチャイナタウンにさえ売っていない。  
ニューヨークで西洋の海にどっぷりつかっていると、きんぴらごぼうがむしょうに食べたくなる。しょうがないから、ジャパニーズスーパーマーケットで、日本から輸入されたゴボウを買う。一本約千円のゴボウをつかむ手がふるえる...。 
友人のフェルナンドに言わせると「なんだ。そんなもん、公園のあっちゃこっちゃに落ちてるじゃないか」彼は、私が買うゴボウを見て木の枝だと勘違いした。日本人の友達がアメリカ人のボーイフレンドにきんぴらごぼうをごちそうしたら、「おれに草の根っこを食わしたな!」と真剣に怒ったそうな。まったく。あのうまさを知らないやつは、こまるなあ。

ある日、ある公園で日本人と出会った。彼女は茂みに入ってごそごそ動いている。「何かあるんですか?」と声をかけた。私が日本人なのを見て、「ああ、たらの芽があるのよ。天ぷらにしたらおいしいでしょ」たらの芽!彼女が言うには「たらの芽なんて日本人くらいしか食べないから取り放題」なのだそうだ。でもそれがどこにあるのかは、教えてくれなかった。クスッと笑って「な、い、しょ」といった。でも肝心なことを一つ教えてくれた。「ここにはゴボウがあるのよ...」え〜っ!スーパーで買ったら10ドルするゴボウが取り放題??? 
それから私は植物図鑑で必死に探した。「ゴボウ、ゴボウ、と。、えーと、BURDUCKというのか....」その頃の私はゴボウの根っこは知っていたが、地上に出ている葉っぱがどんなカタチをしているのかまったく知らなかった。これではゴボウがゲットできるわけがない。図鑑でその葉っぱを見つけた時、私はあぜんとした。 「なんだこれ!うちの近所の公園にいっぱいはえているやつじゃないの!」
 なんと毎日イヌのさんぽで通っている公園の、あっちこっちにうっとうしいくらい生えているのは、ゴボウだったのだ。

雨のしとしと降る、ある日の公園。私はスコップをもっていそいそとやって来た。根元の太そうないかにもうまそうなゴボウに狙いを定める。土の中にスコップを入れる。「ガツン!」いきなり手に衝撃が走る。「イッテエ....、石だ..」それからは、石との格闘が始まった。掘っても掘っても石が出て来る。ゴボウの根っこは一向にその姿を現さない。そのうち雨はざんざん降りになった。ドロドロの土と石と大雨にまみれ、戦いが繰り広げられた。頭の中でゴボウとはまっすぐにはえた根っこ....とイメージをしていた私は現実を知らされる。これはただの草の根っこだ。だいたい石だらけ岩だらけの大地に、素直にまっすぐ根っこがはえているわけないではないか!しかもそれは二股、三股、とあらゆる方向に根を伸ばし、大地にしがみついていた。精魂尽き果てた私はついに大技に出た。ボキッ!力任せに引っ張ったゴボウは途中で折れてしまった。30分間の格闘のすえ、ゲットできたのは10センチのゴボウだった...。においをかぐ。うっすらとゴボウの香りがする。
 うちにもって帰って作ったきんぴらごぼうは、アメリカの土の匂いがする、なんともいえないおいしい味がした。

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